そのひぐらし

旅だけがアイデンティティ

【2022春】太平洋フェリー「きそ」B寝台乗船記録 中編

前回、1記事2800文字も使って1時間半しか時間進んでないらしい。編集時間>経過時間

 

2022/03/07(一応の1日目) 19:00

定刻通り19時、すっかり暗くなった名古屋港を出港。もうしばらくは地に足つかぬ海上の人。そしてもうしばらくは...名古屋の空気に触れることもない。

初めは日本でもトップクラスを誇る取扱量を誇る港や伊勢湾岸道名港トリトンなど、眩しい明かりに照らされまるで物語の主人公になったかのようだったが、次第に明かりは減っていき、ついに陸からどれくらい離れた位置にいるのかも分からないくらい真っ暗になった。しかしさすが巨大な船体。暗闇を優雅に進んでいく。それでも先の見えぬ行先にこれからのあまりにも長すぎるスケジュールが重なり、心細さを感じた。

 

 

19:30

1人真っ暗な甲板に立ち、あらぬ思考を張り巡らせるのもまた一興ではあるものの、だんだんと冷えに耐えられなくなってきたので一旦自室(という名のただのカプセル)に退散。パンパンに詰まった登山用のナップから天井の低さが窺えるだろうか。子供の頃は秘密基地とか大好きだったけどいざそこで40時間ともなると訳が違う。ここは寝るだけに留めよう。船底でエンジンが近いからか妙に暑苦しいし。

 

 

そんな簡素な室内でもちゃんとコンセントはある。携帯の充電も安定してできたしこれはありがたい。

 

 

そしてハンガーも1本だが備え付けられている。何かに使った覚えがある(忘れた)。

 

狭っ苦しい室内だが、格安だしこれから北海道へ向かうんだという序章のような盛り上げ役としては最高だ。旅情をそそられる。

 

カプセルで落ち着いていると慣れない船旅とあってか早くも疲労がどっとやってきた。

 

 

...

 

 

時刻は20時36分。1時間ほど眠りに落ちた。

今まで馬鹿でかいナップ(今旅の全ての荷物が詰まっている)を部屋の中に置いていたが、カプセルには外側からかけれる鍵が付いておらず、部屋を離れる際に荷物の無事が気になること、そして大きなナップを背負ったまま船内で過ごすのが苦痛になってきたのでここで荷物の取捨選択。大きなコインロッカーに馬鹿でかいナップをぶち込み一気に身軽になった。お前は北の大地でまた会おうな。

 

 

ちょっと腹が減ってきたのと、やっぱり船旅の経験値積みたいということで船内にある軽食をやっている「マーメイドクラブ」にやってきた。

21:30までの営業で、HPで見た名古屋コーチン卵かけご飯が気になったもののメニューには見当たらず、止むを得ず賄いカレー(¥550)を注文。

洒落た器に入ったカレーは結構美味いんだなこれが。

顔を上げればきっと大海原が広がっている。しかし真っ暗過ぎて何も見えない。そして誰もマーメイドクラブでお腹を満たしている気配がない。船外にいても船内にいても心細いというのか。

 

再び甲板に出ると暴風が吹き荒れていて、身体ごと飛ばされそうでとっても心細い。遠くに微かに人家の明かりが見える。ゴミ程度に繋がるネットで現在地を確認するとそれが渥美半島なのだと知る。全然進んでない。

 

 

1日の締めは船内の大浴場で。

入港30分前までいつでも入れるとかいう便利さ。そして船内なのに陸地にあるそこまで高くないホテルと同等の設備が備わっている。これはすごい(実は私が船旅を知らないだけで当たり前なのかもしれないが...)。お湯の温度は熱めに感じた。これは私が甲板で体を冷やし過ぎたからかもしれない。

 

 

22:01、明日の日の出は5:58との案内があり、また本日の放送はこれで終わりとのこと。

初めて船上で夜を明かすこのワクワク感。堪らない。これから何をしてやろうかやとカプセルでそわそわしていたが気づけば眠りに落ちてしまったようだ。

 

 

 

 

 

 

2022/03/08(2日目)

途中何度も目覚めながらやっと迎えた朝。それでも計8時間くらい眠れているからか船上という条件がありながらも疲労はそれほど感じない。B寝台は意外と眠れる。

 

...

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腕時計を確認する。6時23分。

完全にアラームをかけ忘れていた。船上から見る日の出をめちゃくちゃに楽しみにしていた。寝坊した!!と焦ってカメラを持って甲板に出る。

どよ〜〜ん。

 

2022年3月8日、人生初めての船上で迎える朝は暴風雨。空は1ミリも赤みを帯びておらず、風がとっても強く、マスクが飛ばされそう。

そしてまた誰もいない甲板にポツンと1人。いや、この広い海原に1人。そうか...船旅には私の知らない魅力がある...!

 

 

揺れが外海特有の周期が大きいタイプになってきた。昨夜までにはなかった特徴である。これは気持ち悪くなるかもな...と思い予防的に酔い止めを服用。旅を楽しむためには早めのパブロン予防策が重要なのだ。

 

展望通路で灰色の海と空をぼーっと眺める。邪魔する者は誰もいない。朝食前に余裕の優雅なひとときを過ごす。

 

 

7:26

おはようございますの放送。そして朝食営業開始だという。混む前に行かなきゃーーっ。

マーメイドクラブ、展望通路の横を通りレストランへ向かう。恐らく初船上レストラン。食券を買ってお姉さんに手渡し、ビニール手袋をつけてバイキング形式の朝食をとる。

まだ時間が早いからか窓側の席が空いていた。良いね。

 

普段は朝食を食べる習慣のない私もこの時ばかりはと張り切っていっぱい盛ってきた。私は毎回バイキング形式の朝食は和食なのか洋食なのかよく分からない盛りつけ方をする。(ヨーグルトと納豆が共存する世界) 食べたいものを食べられるバイキングだからなせる技ですね。

昨夜は若い集団を見かけたが朝食をとっているのはおじさんばかり。やはり若者には朝食をとる習慣がないのだろうか。

 

果てしなく続く海を眺めながら食べる厚焼き卵が最高だった。

 

 

 

 

朝から自分の食べたいものだけでお腹を満たした幸せ者はカプセルへ戻る。

すると再び眠気が。

 

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...

...

 

寝ても寝ても永遠に眠い。春眠暁を覚えずというやつか。それか酔い止めを服用したせいだろうか。3月8日の午前は1回甲板に出た以外はカプセルでずっと寝て終わった。まあ船の上でできることなんて限られてるし、こんなにも時間の制約なくのんびりとうたた寝できるのも普段の日常生活じゃあり得ない、正しい(?)優雅な時間の使い方なのである。

甲板に出ても相も変わらず視界不良だし。そんなに陸から離れていないところを航海していると思われるが絶海の中にポツンといるような。

 

 

12:30

飯食って寝て飯食って...。全く欲求に忠実だぜこの旅人は!

 

朝食と同じシステムで昼食をとる。メニューが少し変わっていたがサラダや味噌汁は変わっていなかった。そういえば一応サラダバードリンクバー付きということらしい。朝からドリンクバーで炭酸飲んだの初めてかもしれない。

再びゆったりと進む海の眺めに腰を下ろし、美味しいご飯で腹を満たす。シンプルだがこれ以上ない幸せなのかもしれない。

 

朝食の時も思ったが乗客の数に対し取ってる人の数が少ないように見える。朝食も昼食も¥1,100と個人的には十分な値段設定だと感じるがみんなはどんな方法でご飯をとっているのだろうか...?名古屋港を出港する際に全部買い込んで来てる...?

 

 

昼食を取って席を立ったら日差しが入り込んできてることに気づいた。ついに天候回復か。明日は日の出が見たいよう。

www.taiheiyo-ferry.co.jp

HPによれば14:30であるという太平洋フェリー同士のすれ違いまで陽の当たるラウンジで音楽を聴いたりこのブログの元となっている日記を書いたり。

数人しかいない周りの乗客もうたた寝をしたり読書をしたり思い思いの時間を過ごしているようだ。この時間よ、止まれとは言わないよゆっくり進め。たったこの瞬間も豪華客船は北へゆっくりと歩みを進めている。

 

 

14:20

そろそろだろうかと甲板へ向かう。風は少し収まった模様。

甲板に上ると真っ先にお姉さん3人組に声をかけられ写真を撮ってあげた。1人旅の若者は声をかけやすく好都合なのだろう。甲板上は私とお姉さん組だけであったが、いつもならそれからくだらない話をする私であるがそれ以上関わるのはやめておいた。

まもなくすれ違いの放送がかかると甲板には10人くらい集まっただろうか、同じくすれ違いを見に来た人たち。進行方向左奥から思ったより速いスピードで近づいてきた名古屋行き太平洋フェリー"いしかり"は14:39、お互いの航海の無事を祈り、汽笛を鳴らしすれ違った。

向かいの甲板にも10何人かこちらを見ている人がいる。私たちは只今仙台・苫小牧へ、彼らはこれから名古屋へ旅の途中。海上にて一期一会。ロマンの極みしかない。

いしかりの去り際を太陽が照らし、華やかさを演出していた。

 

www.youtube.com

 

その後はラウンジでゆったりと過ぎる時間を噛み締めたり狭く暑苦しい部屋で過ごしたり、甲板で徐々に傾いてきた陽を眺めたり。16時27分、定刻より少し早く仙台港に接岸したのを部屋にて放送で知る。とりあえず甲板に上って仙台港とはどんな場所か見てみよう。

 

            仙台港は定刻では16時40分着、19時40分発となっており、苫小牧まで向かう旅客は途中下船も可能

本当に洋上で1日を終えてしまった。特に何か生産活動をしたわけではないが素晴らしい特別な1日だった。

 

名古屋港以上に貨物の気配がする。無論、名古屋の方が規模は大きいはずなのだが仙台の方が全てがコンパクトに、近くにあるからこのような感想になるのだろう。(写真には写っていないが)遠くに観覧車やイオンが見える。仙台に来るのは2016年3月以来、実に6年ぶりだ。最初は途中下船するつもりはなかったがそろそろ地に足をつけたいのと仙台の地を久しぶりに歩みたいという気持ちから急遽途中下船することにした。急いで甲板を降り部屋に戻り、準備をし、必要な手続きをロビーにて終え、16時47分、私は(一時的に)仙台の人となった。

 

 

ようこそ仙台港へ。

ここまで21時間半も船に揺られてきたのにも関わらず仙台に来たという実感はない。

 

レトロなフェリー埠頭には似つかわしい、あまりにも巨大な豪華客船が停泊している。

乗船から22時間以上船上で揺られていたとあって、気持ち悪さはないが感覚が麻痺していて真っ直ぐ歩きづらい。まるで酔っ払いの千鳥足のよう。立ち止まると波による上下運動を感じる。こんなの初めてだ。

 

 

さあ、仙台に居られるは僅か1時間と少し、何をしようか。

 

 

 

 

 

2022/09/01:投稿

2023/12/03:再投稿