2020/09/27 08:06
ワイドビュー南紀とは、名古屋から四日市や津を経由して紀伊半島の東側、尾鷲や世界遺産のある熊野方面へ向かう特急列車である。2020年入って初めての旅。ご時世柄しばらくまともに遠出ができなかった僕らは自然に触れたくて...
・特急ワイドビュー南紀1号 名古屋8:05→熊野市11:13
10:19
途中紀伊長島駅で数分停車。休憩がてら1段低いホームに降り立つと海の街にやってきたことを感じる。もうすぐ10月になるとは思えない強い日差しを浴びてさらに南へ。
11:13
名古屋から遥々3時間、定刻で熊野市駅に到着。移動時間と車窓で十分旅を感じた。北へ向けて海の街を歩き出す。既に旅感溢れる非日常の景色に心躍る。
鬼ヶ城歩道トンネル(木本隧道) 熊野古道の難所であった松本峠越えを解消するためにと大正14年に竣工。煉瓦造りの端正な顔立ちが重厚感がある。
(参照:鬼ヶ城歩道トンネル(木本隧道)の解説シート | 土木学会 選奨土木遺産 )
現在は新しいトンネルが開通しているので歩道用として用いられているが長さ500mOverの歩道トンネルって結構レアなのでは。現地でも歩道用トンネルにしては長すぎるのと重厚さに違和感があったが帰宅後に調べてみてなるほどと思った。
トンネルを抜けると青過ぎる海と頭にあんこがのっているとしか思えないキャラがお出迎えしてくれる。1つ目の目的地はここ「鬼ヶ城」(世界文化遺産)。
早速自然が牙を剥く。1枚岩を水がへばりつくように流れていく。長い時間をかけて浸食していったのだろう。
煌めく青い海にどこまでも続きそうな青い空。自然が作りだす景色はかくも美しいものか。ここまで青い海は久しぶりに見たかもしれない。
これがネットで偶然見つけて私を一瞬で虜にした風景。熊野灘の荒波が岩を削りに削り、ここまで迫力ある景色を作り出した。あまりの厳しさから地中に逃げる土木技術を獲得する前の人類はここを越すためにわざわざ山を越えていた(熊野古道)。
現代の我々はほぼ垂直の岩壁に遊歩道を作り出したが、まじでゴミのよう。
眼下には常に波がざっぱんざっぱんと打ち寄せている。近代以前のトンネル建設技術を持たなかった日本人はよく海岸沿いに道を設けた。山越えをするよりアップダウンが少なくて済むからである。しかしここは清々しく道を通すことを諦めようという気になる風景だ。
整備された遊歩道とはいえ、決して歩きやすいということはなく、いざ通り抜けるとなると少しドキドキする。右手には張り出した岩壁、左手には落ちたら助からないであろうしぶきを上げる青い海。時々現れる行く手をビシャビシャにしやがる洗い越し。
岩壁を抜けて。鬼ヶ城、あまりの天候の良さ、自然の厳しさ、実際に歩いて味わえるスリリングさからこれまで見てきた自然風景の中でもトップクラスに印象に残った。
12:54
2時間弱の散策を終え、熊野市駅に戻る。
背後に山を従え、跨線橋を備えた駅の姿が私の想像する"田舎の駅"に合致する。久石譲の「あの夏へ」でも流れてきそう。(もうすぐ10月だけど...)
名古屋方面への特急に乗車し、次なる目的地へ。
・特急ワイドビュー南紀6号 熊野市13:05→尾鷲13:31
13:46
尾鷲に着いたらそのままバスに乗って山へ。
陽が差し込む昼下がりのバスって気持ちいいよね。
・三交バス 尾鷲駅口13:44→鷲毛13:57
13:59
山を越え1つ目のバス停で下車。思ったより山中で降ろされた。
2つ目の目的は熊野古道を歩くこと。過去に恐らく熊野古道で1番メジャーな(?)大門坂(←那智の滝に行ったことある人は歩いたことあるのでは。)を歩いたことがあるが今回はシンプルに峠越えである。昔の人が汗水垂らして歩いた道を追体験したくて...。
早速整えられた石畳が迎えてくれる。
整然と並べられた石畳は明らかに人の手が加えられた人工物である。しかしそれを人工物と感じさせないほど、あたかも最初からあったかのように自然と調和している。それは1つ1つの石が自然石だからであろうか。
眺めるだけなら美しい、癒される風景である。ただ、写真でも分かるように相当な勢いで登っている...。そして、なんとなくお分かりだろうが、歩きづらい...。
日本でもトップクラスの雨量を誇るこの地尾鷲。この石畳は雨から道を守るための工夫なのである。
息が上がってきたところで川を渡るボーナスステージ。
自然石によって組まれたであろう堤防以外の土木構造物を持たない実質的な原始河川は、あまりにも透き通った水を流していて火照った身体を冷やすのにちょうど良かった。思わず飲んでしまいそうになった。(飲んでも問題なさそうだけど...)
しばし休憩。レンズに虹が映る。
ちなみにこの手の風景は私の大好物です。多分本と食料を持ち込んだら日没まで居られる。
どこから湧いてきたか、路面を水が濡らす。確かに石畳が無い土の斜面だったら路面は浸食され放題、ぬかるんだ道を悲しい気持ちになりながらスニーカーを泥だらけにしただろう。しかしこれはこれで苔むした石の表面がぬるぬるする。身長な足運びを要求される非日常的な道路だった。(これ、上りだからまだ良かったけど下りだったら...)
山を登り切って開けた場所に出た。眼下の斜面は地滑り跡だろうか。一部分だけ木がごっそりなくなっている。
遠くを見れば果てしなく続く山並み。強い日差しと入り組んだ沢地形が陰影をはっきりさせている。
ここからさらに歩いて10分ほど。息を切らして辿り着いたは峠の頂(標高325m)。登り始めて50分程度で到着した。しかし木々が生い茂り、眺望が悪く満足できなかった&時間がまだあった我々はさらに山を求め、熊野古道を逸れ天狗倉山という山を目指すことに。
どれが登山道か怪しくなるような山道をガッツリ息を切らしながらゆく。
15分ほど経過。右膝の前十字靭帯断裂の再建手術をしてからまだ3ヶ月しか経っておらず、体力、筋力共に酷く消耗していた私には無限のように思えた...。
しかし、登り切ったところに現れたこの風景は、我々の疲れなど一瞬で吹き飛ばした。
すげえ。
なんで山の上にこんな巨岩があるんだ。
スケールがデカすぎる。
なんだこの得体の知れない梯子は。
全体重を預けて大丈夫なのか?
(そりゃ、仮にも遊歩道として整備されているから大丈夫なんだろうけどさ...。)
1人ずつ、恐る恐る上へ上がっていく。
15:16
標高522m、天狗倉山に到着した。巨岩はある程度の面積があり、休憩するのにぴったりだが直方体のように側面が切り立っており、なかなかスリルのある山頂だ。そしてご覧の通り眺望がめちゃくちゃ良い。しばし休憩。
ヤバイ。
断崖絶壁みたいな場所だここは。山間部にまで入り組む尾鷲市街を一望できるが立地が凄いぞこれ。落ちたら多分助からない高さがある。
小さな頃から親に連れられて登山をする程度の浅い経験はあるがここまでスリリングな頂は初めてだ。
巨岩の下には祠が。巨岩群に囲まれている&後光差し込むというロケーションに加え、これまでの過程でお腹いっぱいになる程神々しい。
(ちなみに1枚上の写真は左の岩から、2枚上の写真は右の岩から撮っている。)
自然の美しさと魅力を感じとり大満足な我々は峠を越え、順調に高度を下げてゆく。日もだいぶ傾いてきた。人家が現れると少し落ち着く。昔の人々も心細い峠を越えては人の温もりに安堵したのだろう。
17:28
最後は疲れた身体を刺身定食で労ってあげる。
1日しっかり運動してしっかりお腹を空かせた我々に新鮮で分厚い刺身が染みる。とにかくとにかく美味しい。運動の大切さを実感する。ちなみにこれで1000円というので驚きである。お店の方のご好意で煮魚のアラもタダでくださった。
特に印象深かったことからいまだに名前を忘れていない。「鬼瓦」さんで夜ご飯を食べたことを。
17:59
すっかり陽も落ちて夜の帳が下りる頃。尾鷲駅に戻ってきた。
今日1日で自然と歴史に触れ、現代からタイムスリップしたかのような気持ちになった。最後には安くて美味しいご飯で〆ることができて、日帰り旅とは思えない満足感のある旅になった。
まだまだ地元東海地方には私の知らない魅惑のランドスケープが眠っているようだ。
・特急ワイドビュー南紀8号 尾鷲18:18→名古屋20:49
さすがに疲れた。
補足:
・今回の写真は珍しくカメラではなく全てiPhone11 Proによる撮影。天候条件が良かった(快晴)からか、ブログで使う程度ならカメラと遜色ない程度の画質に見える。技術の進歩、凄過ぎる。
・この次の日、とんかつを食べました。
2022/08/17:投稿
2023/11/17:再投稿