そのひぐらし

旅だけがアイデンティティ

【2022春】太平洋フェリー「きそ」B寝台乗船記録 後編

 

2022/03/08(2日目) 17:28

僅か1時間と少しだけ仙台の人となることを許された私は、まずは近くのイオンで今夜の酒とつまみを購入。めちゃくちゃ1人で楽しむ気ですやん俺。

イオンを出て、すぐ行ける場所ないかな〜とGoogle マップを眺めた結果、仙台港中央公園に行ってみようということに。日も暮れて夜の帳が下り始める臨海部の街をひた歩く。仙台に来たという実感は全くないが、道を歩いていると時折現れる青い道案内の看板や"仙台臨海鉄道"の文字がここは仙台だよと視覚に訴えかけてくる。

(そういえば名古屋と比較すれば仙台は十分北国だ。しかし気温面で名古屋との差は感じなかった。フェリーで長い時間をかけてやってきて身体が徐々に順応したからだろうか。)

 

仙台港中央公園に着くと、時間の関係で既に閉園しているっぽかった。

ただ仙台の臨海を散歩しただけだったなと思いつつ、それでもどこか満足してフェリー埠頭に戻った。

 

18:03

仙台港フェリー埠頭に戻ってきた。辺りはもう真っ暗。名古屋港の太平洋フェリーターミナルとなんとなく似た造りをしている。仙台から旅立つ旅客に紛れて18:15の乗船開始を待つ。待合場所は乗船待ちの人で埋め尽くされていた。名古屋ー仙台よりも仙台ー苫小牧の方が需要があるようだ。確かに前者は隔日運航なのに対して後者は毎日運航と頻度に差がある。

 

これは途中下船するにあたって手続きを行なって得た再乗船証。

 

時刻はちょうど18:15、放送とともに旅客は我先にと乗船のタラップへと向かっていく。私も続け続けと長い長いタラップを歩き、1時間半ぶりに豪華客船の旅人となる。船とは思えない豪華なエントランスに見慣れからもはや安心感を覚える。

 

18:30

仙台から乗ってきた大勢の旅客でゆったり食事ができなくなるのを恐れた私はレストランの開店と同時に夕食を摂る。これでレストランでの朝昼夕3食完全コンプリート。また1つ経験値を上げた。

急ぎすぎたかまさかの1番乗りでまだフェリーのお姉さんたちが楽しく談笑していた。別にこちらは悪いことしてないんだけどなんかごめんね。

 

停泊中の仙台港の船上でサーロインやカツオのたたきなど、朝昼よりもちょっぴり豪華なご飯に舌鼓を打つ(ちなみに、夕食料金は朝昼よりも高い)。特にサーロインは冷めても柔らかくて美味しかった。船上でもこんな料理が出せることに驚いたよね。あとカツオのたたきはニンニクが合う。生姜以外に知らんかった。

 

隣のトラックドライバーたちだろうか、おじさん集団がビールで宴を催していたのが印象に残っている。

 

 

19:40

せっかくの船上ディナーであるにも関わらずさっさと夕食を済ませ、甲板に出てきた。もちろん仙台港の出港を見届けるためである。(この記事書いてて思ったけど、これだけワクワクしていろんなこと試みてる割にはディナーでお酒飲むことはしなかったんだなって、ちょっと意外)

 

誰もいない甲板...。

ただでさえ北国にいると言うのに、まだまだ北へ向かうと言うのか...。

仙台港に着いた時は久しぶりの人里に安心感を覚えたが、いざ出発ともなればまだ明るい港にいるのにどこか寒々しく感じ、心細く感じ...。

 

19時45分、定刻より少し遅れて仙台港を出港。方向転換をして東に進み、静かに明かりが遠ざかっていく...。次の停泊地は終着・苫小牧だ。

 

 

もうやることも一通りやったと言える。一旦部屋に戻って寝た。誰が消したか分からないが部屋の電気が消灯されていた(反射で明るいのは廊下の明かり)。

 

 

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目覚めたら22時前、船上で過ごす最後の夜に途端に名残惜しさを感じた私は暴風吹き荒れる甲板へ出た。星が綺麗だった。私たちは日頃電灯やビルの明かりで本当の夜空を知らない。絶海の彼方では月明かりですらも眩しく感じ、一筋の光が海上を白く照らしていた。物語にありそうな光景に思わず息を飲んだ。しかし美しい風景とは裏腹に風は相当強く、体ごと持って行かれそうになり恐怖を覚えた。

 

ちなみにこんな時間、そしてこんな暴風なのに私のような物好きが甲板に1人だけおり、ちょっと驚いた。こんな環境では長時間黄昏れることもできまい。

 

 

 

そしてやはり締めは大浴場で。誰もいない風呂。

太平洋フェリーのHPより

写真だけ見たらホテルの風呂と区別がつかないだろう。よくぞこんな豪華な船を造ったものだ。私の知らない世界をまた1つ、開拓したか...。

弱すぎるドライヤーを頭に当てながらボーッとする。なんてことのないこんな時間に幸せを感じる。そろそろ日付が変わりそうだ。明日は絶対に日の出が見たい。5:55に起きるのだ。絶対にな...!

 

 

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2022/03/09(3日目) 0:18
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日の出を見ると誓って風呂を出たはずの私の姿はなぜかラウンジにあった。

そういえばこの日、3月9日は大学の成績発表なのだった。日の出も見たいが成績も見たい私は我慢できず、誰もいないラウンジで3Gが4本立ってる微妙な接続具合で粘りに粘り、15分かけてなんとか成績を見ることができた。

 

北の大地に向かう船内でフル単を知る。

これより前にも後にも無い経験だろう。まだ北海道にすら着いて無いのに初めてだらけの経験でお腹いっぱいだよ。

 

 

 

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2022/03/09(3日目)

最低な夢を見た。最低な目覚めをした。それにしても夢を見る時間が長すぎた気がする。日の出に間に合うk...ハッ!!

目覚めてすぐ嫌な予感がしたんだよな。時計を見ると時刻は既に7時をまわっている。慌ててブラインドをあげると狭苦しい船底のB寝台573室にも光が差し込んでいる様子。これはやったなぁと思いつつ晴れてはいるようで、今すぐ甲板に上がらなきゃ!!

 

甲板に上がると風が強すぎて、さらに指が千切れそうなくらい寒い。しかし昨日とは打って変わって青い空に昇りすぎて赤みを消しつつある太陽の姿。反対を望めば雪を被った下北半島の姿。そうか、ついに北日本にやってきたんだな...!

 

昨朝とは全く異なり突き抜けるような青い空、どこまでも続く大海原、地球が丸く見えそうな水平線。日の出が見れたら息を飲むほど感動しただろうがこれでも十分だ。やはり船旅の醍醐味は船上で迎える朝日だろう。

 

甲板上はあまりにも冷たすぎて、撮影する私の手も水平を保てないほど風が強すぎて、長居するには向かなさすぎる環境だった。それでも私は初めて出会う船上での朝日にひどく興奮し、舞い上がり、ひたすら夢中で写真を撮り続けた。

 

こんなにも水平線と空の境界がはっきりと分かることがあるだろうか...。遥か彼方まで遮るものは何も無い。

 

 

夢中で写真を撮り続けていたものの、次第に寒さの限界を感じ、ラウンジへ急いで退避した。展望通路にも眩しい朝日が差し込み、温かい空間を作り出していた。ここで顔を洗ったものの、指先が冷えすぎて洗面所の水が温水なのか冷水なのか分からなかった。

 

 

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今日の朝ごはんは軽食ラウンジ"マーメイドクラブ"の1日4食限定の名古屋コーチン卵かけご飯と決めていた。出発前からマーメイドクラブの紹介に記載されていて気になっていた(1日目、乗船後21時頃に食べようとしたのだが無かったのだ。Part2参照)。4食しか無かったらそりゃすぐ無くなるよな...。

ということで限定とあらば開店と同時に行くしかない。7時50分に一旦寝床に戻った私は少し準備をして8時ちょうど、開店と同時に舞い込んで無事TKG1番乗りを果たしたのだ。日の出は見れなかったがTKGは食べることができた。

 

写真は私が1食注文したので残り3食になっている。

 

こちらが名古屋コーチンTKG。汁と漬物もついたこのボリュームで船上価格で¥550って安くね?少し陸地から離れて見えない北の大地を想像しながら食べるTKGは格別だ。足元を右から左へ群青が流れていく。思わず津軽海峡冬景色が聴きたくなる。竜飛岬はご覧になれない(地理的な問題で)。卵とご飯の配分が適切すぎて、私のようなご飯が多すぎて卵が薄い貧乏TKGとは訳が違う。

 

ちなみにTKGは開店から21分後の8時21分に既に売り切れていた。

 

 

お腹を満たした後は寝床に戻り1時間ほど睡眠。9時45分に起床し予定では11時となっている終着・苫小牧の接岸に向けて下船する準備をした。

準備を終えて10時18分、最後に大海原の眺めを楽しもうと甲板へ上がると...。

日もだいぶ昇った。晴天だとこうも印象が変わるものか。

 

昨朝と同じ、誰もいない甲板にポツンと1人、いや、この広い海原に1人...だがしかし、全く持って心細さは感じられない。これは!やっと見えてきた北の大地への希望と期待しか感じられない!!

 

うおぉおおぉおおおお!!!!

ついに北海道が見えてきた。馬鹿だ...本当に船で北海道にやってきてしまった。名古屋港を出港して39時間強、あまりにも時間がかかりすぎた。時間のせいでとっても遠い場所のように思える。いや、実際にとっても遠い場所なんですけど。

3枚目の写真は支笏や有珠山あたりだと思うんですけど、ちょっと北海道の土地勘がないので分からない、がアンサーです。

 

こちらは恐らくこれから接岸する苫小牧の街並み。苫小牧市は人口17万人弱で北海道4番目の人口を誇る工業都市である。札幌都市圏、そして北海道の空の玄関・新千歳空港に割と近い太平洋側の港であるという地理条件から工業都市港湾都市として栄えている。写真でも圧倒的に分かる工業都市感。

 

10時45分、定刻到着時刻の15分ほど前から苫小牧港への接岸作業が始まった。汚いガラスから見える苫小牧の街は思っていたよりもだいぶ都会だ。ビル群の後ろに白く雪化粧をした山々が見える。

 

10時57分、下船のご案内が流れた。1列に並んで下船を待つ。ついにゲートが開かれた!!大勢の旅人が北の大地に解き放たれた。

いざ、北海道に上陸!!!

名古屋、仙台と同じく長いタラップを渡ってフェリーターミナルへ。エスカレーターがあったりそもそもの規模が大きかったり、そして新しめなターミナルだ。

ここは仙台、名古屋だけではなく八戸、大洗(茨城県)など各方面への海の玄関口だ。

 

元気です北海道。それは良かったです。

掲げられた多くの旗に少し国際を感じつつ、改めて背後の太平洋フェリーの大きさにビビる。この全長200メートルもある巨体が私を名古屋から北海道まで連れてきてくれた。

 

太平洋フェリー。人生初の船旅がこれで良かった。船旅の醍醐味と旅情をひたすらに享受でき、ゆったりと流れる自分の時間を噛みしめることができた。旅情を感じるという観点ではB寝台にして良かったなぁとも思う。狭苦しいことには変わりないけど。

 

 

フェリーターミナルを出て苫小牧駅行きのバス乗り場を探す。そして目に飛び込んできたのは雪雪雪。昨夜の仙台では見られなかった光景に思わず口角が上がってしまう。凍った歩道で11時30分に発車するバスまで寒空の下待ち続ける。北海道対策と称して下半身にヒートテックタイツを、上半身はヒートテック含めひたすら重ね着を施した重装備のおかげで隠れている部分は寒くないが手が寒い。これからの長い長い滞在期間の課題となりそうだ。バス待ちで長蛇の列を成しているがみんな寒そう。

 

 

寒地で使用され続けたんだろうなと一目で分かる汚れたバスがやってきた。遥々太平洋フェリーでここまでやってきた旅人はみんなこれに乗って苫小牧駅に向かう。

そういえば仙台で降りた時に顕著に感じられた船に乗ってます感の酔いが全くない。あるのは精神的な疲労のみ。完全に船に慣れてしまったのだろうか。少し心臓に来る疲労を感じる。船内では寝てばっかだったとはいえ環境が良くないからか。私はどこでも寝れると自負しているが、寝つきが良いだけで身体的負担を考えるとどこでも寝るべきではないかもしれない。

 

車窓がだんだん都会になっていく。車より高く積み上がった道路脇の雪に北国を感じる。

駅前通りに入ると前方に巨大な白壁が見えてきた。

徐々に近づくとそれは駅ではなく巨大なメガドンキであった。

3月9日(3日目) 11:45 苫小牧駅到着。長きに渡る北海道紀行がついに(やっと)始まる...!

 

 

 

 

2022/09/02:投稿

2023/12/05:再投稿