そのひぐらし

旅だけがアイデンティティ

【2022春】太平洋フェリー「きそ」B寝台乗船記録 前編

2022/03/07 17:26

寒空の下、青いナップを背負った男が一人。彼はこれから北海道へ行くらしい。

特大サイズのナップは大きな期待とさらに大きな不安でいっぱいになっていた。

そして北海道に行くという実感は未だ全くない。とにかく一つ言えるのはしばらく名古屋とはおさらばだ。

あおなみ線野跡駅から交通量の少ない海沿いの道をせかせか歩く。60分前、即ち18時だというチェックインに間に合わなせなければならない。

奥には名港トリトンが見える。周りの景観で工業地帯を歩いていることに気づく。

 

 

17:45

やってきた。フェリーふ頭。

タイトルにもあるのでお察しだとは思われるが北海道までの往路の交通手段は船である。

www.taiheiyo-ferry.co.jp

旅好きで知らない人はいないであろう、名古屋ー仙台ー苫小牧を40時間かけて結ぶ豪華客船「太平洋フェリー」である。往復飛行機というパターンも考えた(というか、普通はそのパターンだろう)が、今回私が乗船する条件では値段が大して変わらないこと(今回の条件では片道¥12,600だった)、そして人と違った特殊な経験をしたい見栄、単純な船旅への憧れから行きは北海道まで遥々40時間かけて行くことにしたのである。

 

いたいた。あれが今から2日近くお世話になる豪華客船「きそ」である。HPでは優雅な船旅をご提供と謳っているが、全くその紹介文に恥じない規模の船である。

 

文字通りの豪華客船の横には、豪華客船を運行している会社にしては似つかわしいこじんまりとしたフェリーターミナルが。早くチェックインを済ませて船内へ行きたい!

 

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(チェックインの時間に余裕がなかったために)焦っていた私を落ち着いたお姉さんが笑顔で出迎えてくれる。予約済みの私はそのままお会計へ。レジ横に各寄港地の天気が掲載してあった。苫小牧の-10℃が気になった。

 

仙台経由苫小牧行

名古屋で東北や北海道の地名を見ると思わず沸き立ってしまう。

 

 

エレベータで2階に上がり、誰もいない待合室を通り抜けて...

 

いよいよご船体とご対面。明らかに今まで乗った船の中で1番大きい。これが北の大地まで連れていってくれる頼もしい相棒かァ!!

眼下では車の積み込み作業が進んでいた。そう、太平洋フェリーは豪華客船かつカーフェリーでもあるのだ。広大な北の大地を乗り慣れたマイカーで走りたければぜひ太平洋フェリーのご利用を。

 

 

誰もいない長い長いタラップを進む。飛行機を思い出す。聞こえるのは私の足音だけ。

いよいよ船内へ。みんなの考える"船長"っぽい格好をしたおじさんが乗船券を拝見し、私を豪華客船に解き放つ。

まずは私が指定された部屋へ。

太平洋フェリー"きそ"は上からスイート、特等、1等、S寝台、B寝台、2等という等級に分かれており、私が今回乗船するのは下から2番目、B寝台だ。ちなみに1等までが個室、S寝台とB寝台はカプセルホテルのような半個室、2等は広間に集団で雑魚寝という保育園のお昼寝スタイルだ。(保育園ほど大人数じゃないけど)

 

船奥のB寝台、2等客室ゾーンの廊下をひた歩く。学校の廊下とは違う、明るい雰囲気ながらすれ違いにも窮屈を覚えるこの廊下は今までに味わったことのない感覚だ。

 

ここが私の40時間のプライベートルームが存在するB寝台部屋。廊下から部屋に入ると半個室のベッドが並んでいる。

 

部屋に入り左右を見てみれば...

プライベートルームなんて上等なもんじゃねえ!ただのベッドだ!

...とはいえ、先ほど述べた金額を思い出して欲しい。¥12,600。この金額で北海道へ渡れるのならば40時間の居室がカプセルホテルであっても文句はないものだ。というか、太平洋フェリーは仮にも豪華船内なのでレストランやらお土産屋やら軽食屋やら、ラウンジやら、風呂やら、ゆったりと時間を過ごすスペースはいくらでもあるので...。

 

ちなみにベッドにはカプセルホテルと同様にロールカーテンがついており、内側からなら鍵を閉められる。(靴はどこに置いたらいいんだ...?)

 

 

とりあえず自分の居室確認をしたところで出航までは少し時間がある。船内散策だ。

 

こちらは2等

ちなみにB寝台と2等には運賃に気になるほどの差額はなく、まあそうだよねというか、この日はB寝台ばっか埋まってて2等は1人とかしかいなかった記憶。

 

 

こちらはゲーセン。1回も立ち入ってないのでコメントはできない。ただ豪華だよね。

 

 

自販機スペースもある。売店やレストランが閉まってる時間でも喉が枯れる心配はない。

 

展望通路。腰まで広がる大きな窓から一面の海原が見渡せる。居室が狭すぎて睡眠以外のスペースとして使えない私にとってはキーポイントとなる場所。コロナ前はピアノの生演奏もあったらしい。

同じく展望通路。大人の雰囲気を醸し出している。

 

こちらはエントランス上空。船に吹き抜けがあるとか凄いかよ(語彙力)。

 

 

こちらは売店。まだ名古屋にいるのに白い恋人のポスターを見せられるとは。北海道はすぐそこか。

 

ここで紹介した施設以外にもレストラン(後述)、シアターラウンジ(映画とかラウンジショーとかやってるらしい。)、軽食スタンド(後述)、大浴場(普通にスーパー銭湯と遜色ない設備で驚いた)、インフォメーション、カラオケスタジオ(コロナでやってない)etc...豪華客船を名乗るにふさわしい設備だ。

 

 

一通り船内を巡ったが出航までまだ時間がある。

1番落ち着いていそうな展望通路に腰掛けてさっき買ったコンビニ飯を食らう。せっかく豪華客船に乗ったのにレストランでご飯を食べないんかいだって?乗船時間は40時間。明日の夜もこの船で過ごすんだ。船上バイキングは明日にとっておいてやる。(というより、ディナー料金¥2,100を2日分取られるのが学生にとって痛かっただけです。まだ北海道にすら着いてないし。)

 

そしてここまで散々船の話をしといて言うのもおかしいが私は船がてんでダメでめちゃくちゃ酔うのです。酔い止めもしっかりと服用。(愛知県民に分かるように言えば、篠島日間賀島に向かう船で酔うぐらい)

 

酔い止めを飲んだらたちまち元気になった(プラシーボ効果?)私はついに甲板へ。

 

夜の帳が下りた名古屋港。名港トリトンがすぐそこに。遥か向こうには養老山地が。しばらくこの眺めとはおさらばだ。

 

 

あまりにも巨大な船体。宵闇に浮かび上がる太平洋フェリーのロゴはミステリアスかつコワモテだ。

 

 

○3月7日 19時 名古屋港 出港

出港を見守ろうと寒すぎる甲板で外を見つめる旅人たち。

航海の無事を願い遠ざかる船に手を振る職員たち。

船は静かに、そしてゆっくりと埠頭から離れていく。

 

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しばらくは工業地帯の美しい夜景を両手に眺めながら(船がデカすぎて片側しか見れないけど)名古屋港から伊勢湾へ。

 

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40時間後に北海道にいるとか、俄かに信じがたいな...。

 

私はしばし、海上の人となった。

 

 

2022/06/19:投稿

2023/12/02:再投稿